岩鷲山献茶奉納
中秋の名月を岩手山でと、雨中の網張より登る。
雨あがるも終日視界なし。登頂をあきらめて、
夕刻、御成清水を汲みに、霧の八合目に下りた時、
うす雲に日輪が現れた。
大いなる自然と、山の意思を感じ
山頂での献茶奉納を決意する。
不動平小屋出16時40分。山杖と馬鈴を錫杖にして、
霧の中に現れる石仏の一体一体を拝みながら、
二河白道にも似た、雲中の冷え枯れたお鉢を巡り、山頂に着く。
晴れていれば中秋の名月が出る時分だが、空は黒く、無月。
ただ幸いにも、山頂の風は構えるほど強くはない。
飯盒の雲梯釜で、湯をわかし、茶をたてる。
岩鷲山に献茶奉納す。
18時、完全日没となり、真闇と濃霧に包まれた山頂は、
小間茶室のように狭くて深い。
相伴の茶の美味さに感動し、一碗の茶の深さは感無量だ。
茶事を終えると、残りのお鉢を巡り、
霧で足元しか照らせぬ灯りを頼りに、不動平分岐の石仏をさがす。
18時50分、不動平非難小屋に戻る。
リュックを降ろすと、ほどなく雨が降りはじめた。
まさに、岩鷲山に招かれた献茶だった。
今夜は八合目小屋も無人。岩鷲山の客人は私ひとりである。
大きな台風の通過で、雨と風が猛烈に吹き荒れているが、
雨の日は雨を聴く、山小屋の夜はすこぶる快適だ。
明日は天女の湯を楽しみに山を下りる。
夜半のつれづれに記す。
表千家岩手県支部 鷲山会 泉澤幸志 2012.10.1
(不動平非難小屋・小屋ノートの写しより)